徹底的に上司を研究した結果

その結果見えてきたのは、「彼にも機嫌がいいときがあって、そのときは悪い報告をしてもそんなに激しく怒り出さない」ということでした。

例えば部下が営業先から事務所に帰ってきたときに「おお、今日はどうだった?」と自分から部下に声をかけてくるときなどは、機嫌がいいサインです。部下としては、今自分が抱えている問題について上司に話すチャンスです。

ただしだからといっていきなり悪い報告をすると、たちまち機嫌が悪くなります。

そこでまずは良い報告ばかりを続けることで、上司の気分を最高潮にまで高めていきます。

そのうえで「でもちょっと一件だけご相談があるのですが……」と前振りをします。

すると上司は「何だ、悪いニュースか? まあいいから言ってみろ」と、部下に発言を促します。

そのときに「実はこういうことがありまして……」と悪い報告をすると、やや表情を曇らせることはあっても、キレるというところまではいきません。

「まったくおまえは仕方がないなあ。だったらこうしろよ」といった感じで終わるのです。

また上司の物忘れの激しさについては、リマインドをしっかりおこなうことで対処しました。

「今度のプレゼン用の資料ですが、新たに商品紹介の資料を作成するということでよかったでしょうか。念のためもう一度確認させてください」といったメールを上司に送ることで、自分のための確認を装いながら、上司に何度も念押しをするわけです。

この対処法を発見してから、私と上司との関係は大きく改善されました。

上司のことは結局好きにはなれませんでしたが、顔も見たくないほどイヤでイヤで仕方がないといったことはなくなりました。

相手に求める前に・・・大切な心構え

私はこうした体験談を若手の人たちに話した後に、さらに次のような話をします。

上司との関係がうまくいかないとき、部下は「なぜ上司は自分のことを理解しようとしてくれないんだ」とか「話を聞いてくれないんだ」という不満ばかりが出てきてしまいがち。

つまり上司に変化してもらうことを求めてしまいます。

そうではなくて、「相手を丸裸にしてやろう」というぐらいの意識で徹底的に上司研究をした上で、自分の方が上司との関わりを変えれば関係も改善されるはず。

「相手に変わることを求めるのではなく、自分が変わることが大切ですよ」

と話します。

すると若手のうち多くの方が、納得した表情をしてくれます。

実はこれは、若手が上司に対するときだけではなく、上司が若手に対するときにも、大切な心構えです。

「今どきの若手はわからない」

と突き放してしまうのではなく、彼らの心理や行動をじっくりと観察し、どんなときにどのような言葉掛けをすれば相手の心に届くかをよく研究することが、若手とのコミュニケーションを円滑にするために欠かせないわけです。

それこそ自分が「今どきの若者」になったぐらいの気持ちで研究・観察に臨むといいでしょう。

人の価値観や性格は、育ってきた環境や時代、そして個性によって大きく異なるものです。

特に仕事や会社に対する価値観が大きく揺れ動いている今の時代は、上の世代と下の世代との間でコミュニケーション・ギャップが生じるのは、ごく当たり前のこととさえいえます。

だからこそ「研究」です。

外国人と付き合うときに、相手の国の文化や価値観をよく理解した上で交流することが大切であるように、これからは上司-部下間においてお互いをよく「研究」することが不可欠になると思うのです。