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動画サイトの登場と浸透が、プレゼンを変えつつある

昨年、日本のプレゼンテーションの潮流に、明らかな変化が訪れつつあることを象徴する出来事がありました。

リオデジャネイロ・オリンピックの閉会式、次回の開催地である東京の魅力を世界中の人達にプレゼンする場面で、安倍晋三首相がスーパーマリオに扮してスタジアムに登場したことです。

会場の映像には、キャプテン翼やドラえもんなどのキャラクターとともに、東京の都市の風景も映し出され、

「東京っておもしろそうな街だな」
「4年後はどんなオリンピックになるのだろう?」

と、人々をワクワクさせるようなプレゼンになっていたと思います。

これまでの日本の歴代の首相の中で、ゲームやアニメのキャラクターに扮して公の場に登場した人物など当然1人もいません。

しかし今後は日本の存在感を世界に示すことが求められるような場面では、「こうした演出がごく普通になるかもしれない」と私は考えています。

背景にあるのは、インターネットの動画サイトの登場によって、世界レベルのプレゼンをいつでも誰でも見られるようになったことがあります。

例えばスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式でおこなったあの伝説のプレゼン“Stay hungry,stay foolish”も、かつては卒業式に出席した学生や関係者しか体験することはできませんでした。

しかし今は、YouTubeで検索すればいつでも誰でも視聴が可能です。

そのため、ちょっとやそっとのプレゼンでは、私たちはもう驚いたり、感動したり、心を揺り動かされたりしなくなっています。

プレゼンに対する人々の期待値が非常に高くなっている。

その人々の期待値を、話し手は「見せ方」や「語りかけ方」、「語る内容」を工夫することによって、クリアすることが求められてきています。

安倍首相のスーパーマリオの場合は、「見せ方」の工夫によってクリアしようとしたわけです。

こうしたことはオリンピックの閉会式のような特別な場面だけではなく、私たちが日々おこなっているビジネスプレゼンでも同じです。

ネットで検索をすればすぐに情報を入手できる中で、単なる情報伝達しかできていないプレゼンは今後淘汰されていきます。

普段動画サイトでプレゼンを見慣れている人達の期待値に応えられるプレゼンをおこなっていくことが必要になってきます。

ではプレゼンの潮流は2017年以降、具体的にはどのように変わっていくのでしょうか。

私は3つの「E」がキーワードになると考えています。

Entertaining おもしろくなければプレゼンではない!?

まず1つめのEは、Entertaining(=愉快な、おもしろい)です。

まさにリオ・オリンピックの閉会式のときの日本のプレゼンは、人々を楽しませることを前面に押し出したものでした。

また動画サイトに負けないEntertainingなプレゼンを実現するためには、「わざわざ会場に足を運んでも時間が惜しくない」と人々に感じてもらえるものにすることが必須になってきます。

わかりやすいイメージでいえば、ミュージシャンのコンサートです。

有名なミュージシャンの場合、コンサートによってはDVDで発売されるものもあります。インターネットで動画を見ることも可能です。

けれどもコンサート会場で、たくさんのファンと一緒にその場の雰囲気を楽しみながらミュージシャンの曲を堪能するのと、動画で視聴するのとでは、感動や興奮はまったく違ってきます。

だから人々は高いお金を払ってでも生のコンサートに行こうとするのです。

プレゼンも同じです。

「このプレゼンは動画でも見ることができるかもしれないが、やっぱり生で見てみたい」と思わせるプレゼンが求められてきます。

「いかに聴衆にその場に参加していることを楽しませるか」がカギとなります。

そのため今後は、アップルが新商品を発売するときにおこなうプレゼンに代表されるように、ビジネスプレゼンでもショー的要素が高まっていくでしょう。

体験型、劇場型のプレゼンが増加していきます。

Empathy 共感を生み出すプレゼンを科学的に設計できる時代

2つめのEは、Empathy(=共感)です。

これまでのビジネスプレゼンは、左脳(論理)と右脳(感情)でいうと、左脳系プレゼンが主流でした。

しかしプレゼンの際に論理だけでごり押ししようとすると、聴き手は理屈で言いくるめられている気がして、拒否反応を起こしがちです。

「理屈ではそうかもしれないが、でもイヤだ」と感じてしまうのです。これが左脳系プレゼンの限界です。

ただしだからといって、

「このままではまずいですよ」
「こんな大変なことになりますよ」

と、感情的に煽るのも問題です。

特に最近は聴き手の不安感を煽るようなプレゼンについては、拒絶感を抱く人が増えています。

人々が心を動かすのは、相手が言っていることにEmpathy(=共感)したときです。

共感とは、相手の考えや思いに「確かにそうだな」「本当にそうなったら素晴らしいな」と論理的にも感情的にも心から納得した状態のことを言います。

最近は脳科学の発展によって、どのようなシチュエーションでどんな語りかけ方をすれば、相手のEmpathyを引き出すことができるかが解明されつつあります。

論理と感情を融合させたEmpathyを生むプレゼンを、科学的に設計することが可能になってきているわけです。

Expertise 自分にしか語れない専門性が求められる

そして3つめのEは、Expertise(=専門性)です。

今の時代はインターネットで検索すれば、一般的な情報や知識はすぐに手に入れることができます。
ですからプレゼンで「ネットで調べれば載っていること」や「ほかの人でも語れること」を語ったとしても、誰も見向きもしてくれません。

「自分にしか語れないこと」を語れたときに価値が生まれます。

「自分にしか語れないことなんて、あるわけがないじゃないか」と思われるかもしれませんが、実は誰にでもあります。

それはその人ならではの経験や、その経験によって身につけた知恵です。

金融商品を扱っている営業マンでも、人事部門や企画部門に長い間携わってきた方でも、みなさんその人ならではの経験や知恵をお持ちのはずです。

その経験や知恵を言語化し、相手に伝えられるようになれば、その人にしかできない高い専門性を持ったプレゼンが可能になります。

実際にTEDなどで優れた話し手のプレゼンを注意深く聞いてみると、その人自身の経験や知恵を語ることに多くの時間が割かれていることに気がつくはずです。

2017年以降の日本のプレゼンの潮流は、ここまで述べた3つのEの方向に転換していくと私は予想しています。

いきなり大きく変わることはないかもしれませんが、しかし変化は止まることなく続いていると感じています。

みなさんもその動きに、どうか注目していただければと思います。

from 西野浩輝